『行動承認』をいよいよKindle本化することにし、それ向けに原稿を打ち直し始めました。
 
 手始めに手持ちの本を1冊、裁断機で切ってページをばらばらにし、クリップで止めました。ワードで入力しやすくするためです。

 入力しているとさまざまなことが去来します。

 この本は、やはり徹頭徹尾、「マネジャーのためのテキスト」として書かれました。
 言い換えると「行為者」のための本。

 たくさんのエピソードがありますが、その中で読者が主人公のマネジャーに没入し、その味わった人間的な痛みも追体験し、そして彼(女)が解決のために何かを行為することも自分の肉体がそれをしたように追体験してもらえるようになっています。いわばバーチャル体験をテキストの中でしてもらいます。

 それは、たとえば1人のマネジャーが研修を受けても、その研修をその場限りのものとせず、その後の一定期間、学びを実地に落とすことで自分が何を体験するかを、あらかじめ体験してもらうことでもあります。

 それだけにエピソードは生き生きしていなければなりません。現場に立ってその場の空気を体感できるようでなければなりません。わたしごときの筆力で実現しているかどうかわかりませんが――。

 その場限りの研修は世にあふれています。ほとんどの研修は、現場を良く知らない人事研修担当者がみて見栄えのいいように、華やかな理論や専門用語、表面的な演出であふれています。

 マネジャーたちは半ばおもしろがりながら半ば冷め、アンケートにはいい感想を書きますが自分が職場でやることとは別だ、と切り離して考えています。

 わたしが非営利の、マネジャーたちが自主的にポケットマネーで集まってくる勉強会を主宰してから、いざ企業内研修の世界にいくと、いわばインディーズからメジャーに行くと、どれほど驚いたことでしょう。その落差に。

 マネジャーたちの冷めた眼差しに。

 彼らは自社の人事・研修担当者が選定してくる研修にうんざりしきっているのでした。

 しかし、その「企業内研修の壁」を乗り越えなくては、ひとつの研修が職場の空気を変え人びとを幸せにすることはできません。

 『行動承認』はその「研修の壁」を乗り越えるために書かれたものでした。


 2014年、前著『認めるミドルが会社を変える』から4年、本を書くことの有効性に倦んでいたわたしがどうしてもあと1冊本を書こうと思ったとき、迷ったすえに結局ベストセラーは志向しませんでした。ただ1つ、「現場のマネジャーの心を動かし、身体を動かす本を書く」それだけを考えました。


 あの頃の自分はそういうことを考えていたな。
 入力で手を動かしながらそんなことを思います。

 最近ちょっと話した神戸在住の元編集者の人は、『行動承認』を評して「凡庸な本。身体を動かすまでの力はない」と言っておられましたが、逆にその人自身が「自分は後進を育てることはできなかった」と言っていましたから、編集者は得てしてそういう人種なのだろうと思います。編集者が求めるような言葉のきらびやかさはない本だろうと思います。でもわたしの勘では、変な言葉の綺麗さというのは、現場の人が身体を動かすためには必要ないのです。
 ……と、編集者さん業界のわるぐちを書いてしまいましたが、商業出版を諦めている状態なので許してください。わたしは読者はそんなにバカだと思っていません。編集者さんが思うよりはるかに、社会人というものは聡明です。その方向に導こうと思えば聡明になるし、バカ扱いすればバカになります。
 それは、わたしの中に抜きがたくある「教育屋気質」が、引き上げたいという衝動がそうさせるのかもしれません。
 でも実際に教育の力で引き上げれば素晴らしい状態が実現するのですし。みんなをワイドショー視聴者のレベルに引き下げていいことなど何もありません。


 結局『行動承認』は初版3000部で終わった本でした。この世に3000部しかありません。(だから、今この本をお持ちの方、希少本なんですヨ。意外とAmazonでもあまり中古本の値が下がってないです。皆さん手放されないみたいですね^^)

 弱小だった出版社は、出版前に約束していた販促策を、前後の会社の体制の変化(縮小)もあり、履行していないことがわかりました。信頼を失い、「絶版契約書」を作り絶版にしてもらい、版権を手元に取り戻しました。


 今は、Kindleで出して必要な人の手には届くようにしようと思います。
 Kindleはまだ裾野が狭く、たとえばローテクの人が多い介護職の人などには届きにくくなりますが、仕方ありません。電子出版の市場全体は膨らんでおり、将来的にはKindleで本を読む習慣も根付いていくことを信じたいです。

 『行動承認』を書店の店頭で手に取られた方がお客様になってくださった、という現象も去年はありました。「承認」関係の本を5,6冊購入された中で『行動承認』がいちばん役立った、と共通で言っていただきました。

 
 今日はあまり心と体に力がないのでぼやき日記です。



 そして…、

 わたしが主婦だからお母さんだから、主婦・お母さん向けの本を書けばこの社会は幸せになるのか?
 違うと思うのです。
 マネジメントの世界を幸せにすることが、一番社会全体を幸せにできる道なのです。
 なんども、それは考えました。
 職場を幸せにすることが社会の隅々までトリクルダウンを生み届けるのだと。そして職場を幸せにするとは、マネジャーの能力を上げてやることなのだと。