ブログ読者の皆様、明けましておめでとうございます。
 皆様にとって素晴らしい1年であることをお祈りいたします。
 今年も、私はここでやっております。どうぞよろしくお願いいたします。


 1つ前の日記で「承認についてあまり新奇なことが言えない」と書いたが、大枠は変わらなくても毎年、少しずつは新しい発見があるものだ。
 このブログでは近年は「発達障害」と承認の関係、ドイツ・フランクフルト学派の承認論、それに幸福ホルモン・オキシトシンとの関連などが新しいトピックだった。
 一昨年の新しい話題は人の脳の「内側前頭前皮質」に「行動承認」で働きかけることによって規律規範を教え込むことができる、これは「行動承認」によって部下側に起きる画期的な変化の説明になる。職場でのOJTやリスクマネジメントの指示などに応用できるだろう。
(そう変わったことをする必要はない、単にできる限り「承認」、それも相手にピンポイントで働きかけるタイプの「承認」をまじえながら必要な指示を出してあげましょう、ということ。要するに「行動承認」をしていればよいのだ)

 昨2016年もそれに当たるちょっとした発見があった。「行動承認」を行う上司側の画期的な脳変化についてのひとつの仮説だ。
 「行動承認」の世界の上司たちはなぜ聡明で人の心がよくわかり判断力が高いのか?彼(女)らは「行動承認」ひとつに習熟したら、それ以上何も学ぶ必要がないかのようだ。

 実際には他の研修も色々と受けているだろうし本も読んでいるだろうが、彼(女)らはそれらの知識を易々と自在に組み合わせて動かしてしまう、まるで「行動承認」が万能のOSであるかのように。


 だから、「先生」としては結構寂しいのだがあまり多くの介入を必要としない。
 そして「先生」は十年一日のごとく「行動承認」のことばかり言い続けるのだ。


 さて、前置きが長かったが彼(女)らのこの聡明さの正体はなんなのだろう?

 それへの答えになるかもしれないのが、最近入手した、脳の「側頭頭頂接合部」に関する知見である。

 側頭葉と頭頂葉の繋ぎ目である側頭頭頂接合部は、きわめて多くの情報の通り道だ。2000年代に入って、この部位がいくつかの重要な思考能力と関わっていることがわかってきた。

 少なくとも3つの役割。
 すなわち、
1. 自分の体位と他人の行動を察知する能力
2. 他人の気持ちをわかる「メンタライジング能力」
3. 他人の問題行動の動機が故意かそれとも不測の事故なのかに照らして、有罪か無罪かを決める判断力

に、関わっているらしいことがわかっている。そしてこれら1.〜3.の組み合わせを見ていると、おぼろげながら一つの仮説が生まれてくる。

 つまり、「行動承認」を行うマネジャーたちは、日常的に1.の人の行動を察知することをやっているので、自然と「側頭頭頂接合部」全体の能力を筋肉のように鍛えており、従って2.のメンタライジング能力も3.の人の心に対する洞察に基づく判断力も高いのではないか?という仮説である。

 経験的にはこれは、非常に「ありそう」なことである。そうでもなければ「行動承認」の世界のマネジャーたちの聡明さの説明がつかない。
 残念なのは実際にアカデミックな実験をやったわけではないのであくまで仮説にすぎないのだが。


 また最近ではこの部位が「格差」を感じ取り格差を減らそうとする思考に関わっているらしい、という知見もあった。

>>http://www.asahi.com/articles/ASJB231TZJB2UBQU00B.html

 朝日新聞の有料会員でない人のためにこの記事の後半を補足すると、

 多数の人で調べたところ「お金の分け方」を考えるとき最大の関心が払われるのは「最低賃金はいくらか」つまり最も取り分の少ない人の取り分はいくらか、である。そして最低金額の状況をチェックする時に脳のどの部位が反応したかを血流で調べたところ、立場を置き換えて思考する際に使われる「右側(うそく)側頭頭頂接合部」が関係することも判明した、という。


 哲学の世界の「承認」は実際に「同一労働同一賃金」の思想的ベースとなり格差解消のための思想なのだが、脳の中で実際にそういう「格差解消」の思考が行われており、それは「行動承認」を行うのと同じ部位らしいのだ。
 いいですねいいですね。

 そこの格差の部分はちょっと余談でした。
 だがこの「側頭頭頂接合部」に関しては、今後も「こんな役割を担っていることが新たにわかりました」という知見が出てくるかもしれない。
 そのたびに「行動承認」が大人の人の総合的な思考力に関わっており、努力して維持し続けるだけの価値があるものだ、という話になるかもしれない。



 なので今日のお話は「行動承認」を行うマネジャーたちへの「お年玉」のようなものである。
 あなたたちは、聡明なのだ。おとなたちの中でも、ずば抜けて。

 「行動理論」などは昔からあったものの「部下や選手が伸びる」という相手方のご利益はわかっていた一方、こういう「行為者」つまりマネジャーやコーチの側のご利益はその当時言われていなかったのだ。



 そして、少しドヤ顔で、以前から小声で言っていたフレーズも言ってみる。
 あなたたちの今の聡明さは、「行動承認」を行うのをやめたら失われるよ。だから、絶対に「行動承認」は、やめないで。



 過去に一時期「行動承認」の人となったがその後様々な要因で離れて、急速に墜ちてしまった多数の人々を思うと心が痛む。一度こちら側に振れてから離れた人は、二度と戻ってこれない。

 一方で銀行のトップ支店長から大学の先生へ転身し、大学のゼミでも超有名企業に学生を送り込み成績優秀で学費免除の学生を輩出している松本茂樹氏のように、10数年も一つの手法の幸せな担い手でいることも可能なのだ。