信頼はなぜ裏切られるのか 表紙画像

 引き続き『信頼はなぜ裏切られるのか』(デイヴィッド・デステノ、寺町朋子訳、白揚社、2015年12月1日、原題'The Truth About Trust')の読書日記。今回は後編です。

 後半は、「権力はなぜ腐敗するか」「金がからむと人は裏切り者になる」また、「しぐさ心理学の決定版!”この4つ”が信頼できる人そうでない人を決める」(ポップ心理学風に)があります。

 またITと信頼の項目では、ゲームに勝つことを目的に自分のアバターを利己的に改造すると、そのキャラに自分が乗っ取られ利己的でウソつきになる可能性があることが取り上げられています。ちょうど「フェイクニュース」拡散が大学生の仕業だった、などがわかってきたときに、「IT、ゲームと信頼にかかわる人格変容」を考察した気になる箇所です。

 全体の目次は以下の通りで、このうち第1〜4章の内容は前編でとりあげました。こちらの記事でどうぞ。

第1章 信頼とは何か?
第2章 無意識が支配する
第3章 赤ちゃんは見ている
第4章 恋愛と結婚の核心
第5章 権力と金
第6章 信頼のシグナル
第7章 操作される信頼
第8章 あなたは自分を信頼できる?
第9章 信頼するか、欺くか

 それではいよいよ、第5〜9章の内容です:

●信頼は、他者を頼らなくてはならない人にとって生き延びるための手段である。

●最下層に分類された車種のドライバーは一人残らず車を止め、研究者に横断歩道を渡らせてくれた。中間層では、ドライバーの約30%が法律を破り、車を止めないで研究者の行く手を遮った。そして最上層(フェラーリ)では、ドライバーの約50%が法律を無視して自分の都合を優先させた。

●社会階級の高い人はウソつきにもなる。採用面接の実験では、これから面接する求職者が少なくとも2年以上の雇用期間がなければ仕事に就くつもりがないことを知っておりその仕事が6か月で終わることになっているとき、雇用主の社会階級が高いほど、その仕事が短期間で終わることを隠す人が多かった。

●社会階級の高い人びとのほうが、他者の犠牲によって自分の利益を増やす行動を容認しただけでなく、自分もそうふるまう可能性があると答えた。

●社会階級の高い人びとの信頼度が平均的に低いのは、彼らの育ちのせいではなく、この瞬間に消費できる資源を持っているからだ。信頼度を生み出すのは、自分には他者が必要だという感覚である。独りでは望む目標を達成できないという感覚だ。

●人の信頼度は生まれ育った社会階級によって決まるのではなく、現在、周囲の人々と比べたときの自分の位置によって決まる。

●自分の権力や社会的地位が上だと感じた参加者――社会階級の低い人と比べたばかりの人びと――は、それとは反対に感じた参加者よりも、ボウルからかなり多くのキャンディーを取った(食べたければキャンディーを1つとってもいいと言われていた)

●人は権力を得ると不誠実になるだけでなく、ぬけぬけと嘘をつけるようにもなる。高い地位の盗人群――短時間、ボスの役になった人びと――は、平気で面談者に嘘をついた。じつは、高い地位の盗人群では、実験前に面談者から「嘘つき」に分類された人はほとんどいなかった。ちょっとした地位の変化が彼らに自信を与え、利己的な嘘つきにしたのだ。

――「テストステロン」は地位上昇に伴って出るという。本書では触れていないがこの人たちはテストステロンが出たのだろうか。

お金がそばにあるだけで、人をだます傾向が高まり、信頼度が低下する(ハーヴァード・ビジネススクールの行動経済学者、フランチェスカ・ジーノの研究)。現金7000ドル以上が机に積んであったグループでは、アナグラム問題の採点におけるごまかしは大幅に増えた。

お金のことを思い出させたりするだけで、人びとが自分中心になり、仲間との社会的な交流より自己充足を重視する。ミネソタ大学カールソン経営大学院のキャスリーン・ヴォースの研究)。お金があるという考えを実験参加者に強調すると(お金を見せたり、お金について書いてもらったりすると)、対人行動に劇的な違いが出る。お金を目立たせると、人びとは、助けを求められても積極的に支援しなくなるうえ、自分が困難な課題にぶつかったときに、他者の助けをm止めるのをためらうようにもなった。お金があるというシグナルは、自力本願の気持ちを強め、助けを求める他者や協力の意向を示す他者の拒絶につながるのだ。

●お金と社会的近接性の実験(ヴォース)。社会的近接性とは、他者とどこまで近づきたいかという感覚で、相手との関わり合いへの意欲を示す指標。二人の人間の距離は、交流したいという気持ちが強いほど近くなる。実験から、お金を思い起こさせるものがあれば、人びとが互いに離れて座ることを見出した。

●お金が社会的嗜好に及ぼす影響(ヴォ―ス)。参加者はこれから与えられる難しい課題を誰かと一緒にするか、一人でするかを選ぶように求められた。人はふつう、楽しくない課題では協力したがるが、(お金の絵を見せられるなどして)お金のことを思い出させられた参加者では、それ以外の参加者よりも、単独作業を選ぶ割合がかなり高かった。彼らは、成果を分け合うことや、成果を出すために他者を頼ることを嫌がったのだ。

――このくだりが本書の一番の「きも」。昨年初め、『「学力」の経済学』という本について「教師も子どももカネで釣れ、というおそろしい思想だ」とわたしは批判したのだが、カネで釣ってはなぜいけないか。ウソつきになるし人と助け合わない一匹狼になるし、と「人格面」でのよくない影響が出るということがちゃんと研究されているのである。教育経済学という狭い分野の知見だけで判断してはいけない。

――もうひとつは、アドラー心理学はじめ行動主義に対するアンチの言説をみると、結局かれらは「おカネによる報酬」を批判しているのではないか、そこだけをピンポイントで叩けばいいのにほめる(精神的報酬)までもを批判してしまっているのではないか、という気にもなる。


●権力者は信頼を重視しないが、「人を信頼するのはよいことだが、信頼しないのははるかによいことだ」と言ったベニート・ムッソリーニは最終的にどうなったか。処刑されたのち、遺体はミラノのガソリンスタンドの柱に逆さ吊りにされた。

●専制君主、上流階級の子孫、PTAの会長などは多くの場合、階層的地位が高いおかげで、社会的責任を果たす場面で制約を受けないように感じる。ほかの人びとは彼らの指示を聞かなくてはならないので、彼らは通常、反撃を恐れずに自分の短期的な目標を達成できる。つまり、他者を信頼しなくてもよく、他者に指図できる。

●だが、こうした統率戦略には、暴力や恐怖による強制力を何度も行使して地位を維持しなくてはならないという問題がある。そのため、有力人物が強制力を失うと、搾取に苦しめられた人々は、しばしば報復しようとする。

――どこかの大統領のことをつい考えてしまうが彼はどんな末路をたどるのだろう?

●心の知能(EQ)が高い人びとも、やはり権力のある地位に押し上げられたとき権力の毒に冒される可能性がある(ケルトナーの研究)。だがそれに抗える人もいないわけではなく、そうした人びとは名誉や公平さ、信頼を保とうと努める情け深いリーダーとなり、長く自分の地位を維持する。

●数学的シミュレーション(マーティン・ノヴァク)でも、さまざまな社会集団における現実世界での階層ダイナミクスの研究でも、公平で誠実で寛大な人は、長期的には得する傾向がある。

――受講生さん方、読んでくれているかな。

――ここからは「信頼のシグナル」の話。

●信頼のシグナルは、きわめて慎重に出される必要がある。自分の手の内を一度にすべてさらすと破滅する。

●身ぶりや表情を正しく解釈するには、2種類の文脈が欠かせない。私はそれらを「配置の文脈」と「場面の文脈」と呼んでいる。単独の身ぶりや表情は、人の感情や意図を表す確かな指標ではない

●顔の表情は、単独では人の感情を突き止めるのには役立たない。運動選手が勝つか負けるかして激しい感情を抱いている瞬間の写真を用いた実験で、人間は表情のみから感情を推測するのがひどく下手だということがわかった。

●「場面の文脈」。同じシグナルでも、それを発する人によって、伝えたいことが異なるかもしれない。心が誰かの微笑みを支持のシグナルと解釈するか悪意のシグナルと解釈するかは、その相手の社会的カテゴリー次第。競合相手や敵対する人の笑みは、よくない出来事の前触れかもしれない。

●相手のふるまいを予測する制度は、相手と対面で会話した参加者のほうが、インスタントメッセージを用いた参加者よりかなりよかった(著者の研究)。

●4つの手がかりに注目すると、参加者が感じ取った信頼度についても、実際の行動が誠実なものだったかどうかについても精度よく予測できた。4つの手がかりとは、腕を組むこと、体をそらすこと、顔に触れること、手に触れることだ。これらの仕草を頻繁にするほど、その人は不誠実に振る舞った(相手に渡したメダルの枚数が少なかった)。

●次にこの4つの手がかりをロボットの「ネクシー」に学習して実際にやってもらったり、やらなかったりしてもらったところ、会話中にネクシーが4つの手がかりを出すのを見た参加者は、あとでネクシーを信頼できないと述べた。彼らは、あたりさわりのない手がかりを見た参加者たちと同じくネクシーに好感を持ったが、ネクシーから騙されそうな気がしたのだ。さらに、4つの手がかりを見た参加者はネクシーからもらえるメダルは少ないと予想しただけでなく、メダルをネクシーと分け合う気持ちも薄れた

そして最も重要なのは、信頼度の感じ方がすべてを結びつけたことだ。すなわち、参加者が報告したネクシーの信頼度から、ネクシーが渡してくれそうなメダルの予想枚数と、参加者がネクシーに渡すメダルの枚数が、両方とも直接予測できたのだ

――4つのシグナルとは何!?テストに出ますよー(笑)

●能力のシグナルには微妙さが必要でないので、その構成要素は誠実さのシグナルに比べてはっきりしている。能力を示すシグナルは、自尊心や地位を表す非言語的な表現にそのまま結びついている。たとえば、胸を張る、頭をぐっと上げる、両手を広げて掲げる、両手を腰に当てる、交流するときに他者をあまり見つめない、などだ。


●人は一線を越えて思い上がる(過度な自尊心を持つ)こともあるが、心理学者のリサ・ウィリアムズと著者の研究からは、自尊心がきわめて有用であることが示されている。人は自尊心に駆り立てられて有益な技能を獲得しようとするが、自尊心がなければ、そんな気も起るまい。

――ここもひそかに重要。一時期、自尊心が高いことが暴力傾向につながることが強調された。しかしそれは過剰なレベルになった自尊心について言うもので、自尊心が低すぎる人や子どもには、まず上げてあげなければ学習意欲も湧かない。これは、「承認導入企業」で最初の意欲向上のマーカーとして学習意欲が高まり、仕事関係の本を読んだり社内勉強会を開いたりするようになるのだが、それとも一致する。
(当ブログの『「学力」の経済学』批判の最初の記事なども参照されたい)

――そしてやはり、「自尊感情をもちましょう」という教育は子どもさんのほうにではなく、親御さんや先生のほうにしたい。

 
●自分には専門技能があると思い込まされた参加者は、できるという単純な思い込みによって、自信のシグナル――胸を張った姿勢、頭を上げることなど――を発し、ほかの人びとは彼らの指図を信頼した。メンバーたちは、脅されて従ったのではなく、報告によれば、自信に満ちた仲間についていきたいと思ったとのことだ。彼らは、自信のある人を否定的に捉えたり、偉そうな奴と見なしたりはしなかった。逆に、好感を持ったと報告した。信頼できそうな人が見つかって喜んだのだ。

●心はよく間違いをする。だが、手がかりはつねに間違っているのではない。間違っているのは、心がそれを一般化しすぎるときだけだ。

●顔のつくりによるバイアス。静止状態での顔の構造的な違いを過度に一般化して感情を見つける。その結果、眉が目立つ人や口角がやや下がっている人は、そうでない人よりも、腹を立てている、よからぬことを企んでいる、あまり信頼できないと判断されることがある(トドロフの知見)。

●童顔の人は一般的に、温かい心や善意を持つが能力はやや劣ると見られることが確かめられている(トドロフら)。

●候補者の顔が選挙に及ぼす影響(トドロフ)。2000年から2004年までの5つの選挙で候補者の顔のみに基づいた有権者の選択を分析した。研究チームはニュージャージー州プリンストンの住民に、アメリカの別の地域で出馬した候補者の顔写真だけを見せた。結果は、顔の特徴のみから最も能力があると判断された候補者が、実際の選挙戦において、約70%の確率で当選したのだ。

●政治評論家のラリー・サバトは、「連邦議会が、ニュースキャスターやクイズ番組の司会者に似た人びとに乗っ取られていることがおわかりでしょう」と述べている。

●テクノロジーを信頼するバイアス。想定リスクが高いほど、人間の助手より自動化ツールから提供された情報に基づいて決定することが増えた。

●アバターの仮想世界でも、現実世界の男性と同じように、男性のアバター同士が会話するときには、女性同士や男女の場合に比べて、互いの距離がかなり開いていた。

●ある人から自分のアバターを信頼してもらいたいとしよう。人が他者に対して抱く共感や責任の大きさは、相手が自分にどれほど似ていると思えるかで決まる。たとえば、相手と同じリストバンドをつけるといったささいなことでも効果がある。

●仮想世界で、候補者2にんのうち一方の顔写真を参加者1人ひとりの顔に合わせて変形させ、参加者の顔が40%含まれるようにした。この程度の変形だと意識的な心は気づかないが、無意識的な心はパターンに対して敏感で、この変形に気づく。この結果、大多数の人が、政治的な立場についての情報を無視し、自分の顔が40%含まれる候補者に投票する意思を示した。

●相手より戦略的に有利な立場を得られるようアバターの外観を変えると、そのような変更が逆向きに作用してアバターのユーザーに影響を及ぼす。この可能性は「プロテウス効果」と名付けられている。背の高さは、他者と交流するときの自信や優越感、自尊心の大きさと関連することがわかっている。その分、誠実に振る舞おうという気持ちが薄れる。大柄なアバターを使った人は、バーチャルな世界で自分本位に振る舞うだけでなく、その態度を現実世界にも持ち込む。

●プロテウス効果を裏付けるように、背の高いアバターを割り当てられた参加者は、バーチャルな世界だけでなく現実世界でゲームをしたときにも、自分の取り分を多くした。自分には力があるという感覚が、無意識のうちに「通常の」自分に対する認識にも波及し、信頼に関連する振る舞いが悪い方向へと変わったのだ。

●ファンタジーの世界で利己的に振る舞う力やそうした役割のあるアバターを選ぶと、思いがけず、同じ振る舞いが現実の日常生活でもわかりにくい形で引き起こされる可能性がある。そして、もし誰もがこのようなゲームで何としても勝って他者を支配しようとするのなら――その可能性は高い――、私たちの社会の全般的な誠実さは、じわじわと下降線をたどるかもしれない

――「フェイクニュース」蔓延と関連するかもしれないところだ。ゲーム育ちの若者がネットでウソを拡散する、既に起きていることだが科学的にもその可能性が高いことがわかっているのだ。

●ヘルスリテラシーの低い人へのITを使った援助の試み。ヘルスリテラシーの低い人は勧められた治療を理解できず、指示された治療法に従えないため、退院後の健康状態がきわめて悪い。しかもその率は高く、アメリカの成人全体の36%、都市部の貧困層では80%を超える。ここで「信頼」できる特性を備えたエージェントを設計し、患者にこのエージェントとタッチパネルで交流してもらった。すると、ヘルスリテラシーの低い患者たちは、このエージェントに大きな信頼と安心感を抱いたと報告しただけでなく、大多数が人間の看護師よりもエージェントと交流したいと答えた。

●この実験でエージェントは、親身になっていることを占める感情表現と、患者の注意を退院後のケアプランの情報に向けるための手振りという二つの非言語的な行動によって、双方向の関係をつくり出した。それはヘルスリテラシーの低い人々と人間の看護師や医師との間に欠如しており、学習効果を高めるうえで大切なものでもあるからだ。エージェントの社会的な表現や患者への接し方を機械的なものにすると、患者たちはエージェントにあまり親近感を持たなかった。

――やっぱり、「AI先生」普及の余地はありそうですね

●患者の意識が高まった理由は、1つには患者が情報をしっかり理解したことにある。だが著者はひそかに、患者が誠実に振る舞いたいと望んだことも関係しているのではないかと思っている。患者はデジタルの看護師に対して、自分が信頼に値することを示したいと思ったのではないだろうか。


 抜き書きはおおむね以上。

 たいへん面白い読書でございました。


ネット時代、「社会全体の誠実度が低下するかもしれない」という著者の予測が既に当たりつつあるように見えるのが気がかりです…。