福井大学子どものこころの発達支援センター教授・友田明美氏より、アドラー心理学の「トラウマは存在しない」について、貴重なコメントをいただいた。同教授のご了解をいただき掲載させていただきます。


「NHKあさイチで放送されたように、いじめの認知件数は、22万4,540件と過去最高(文科省調査・2015年度)。そんな中、子どもの頃にいじめを受けた人が大人になってもその後遺症に苦しむ“いじめ後遺症”の実態が、最近明らかになってきました。容姿のいじめをきっかけに何十年も「摂食障害」に苦しむ女性や、いじめから20年後に突然思い出して「対人恐怖症」に陥った女性もいて、多くの精神科医がその深刻さに気付いています。
また、子ども期の心的外傷(トラウマ)体験は、従来考えられていた以上に頻回なもので、専門的知識とスキルを持った専門家による心理治療が必要になるケースもあります。
心的外傷体験は、子どもの心と脳の発達において長期的な悪影響を及ぼすことが知られています。」


友田教授は、トラウマ経験者の脳をMRI撮影し、実体としては存在しないと言われた「トラウマ」を可視化。


同教授の研究では、子どもが何歳の時に虐待を受けた場合最も深刻な影響を受けるかというと1歳前後だった。このころにダメージを受けると報酬に反応することに関わる左右の線条体の動きが悪くなる。それは将来、酒やギャンブルなどの深刻な嗜癖行為につながるという。

「これは脳が恐ろしい方向に導かれるということです。ちょっとやそっとでは快感を得られず、薬物や酒に平気で手を染めていくということです。この結果からも、早急な養育者支援が必要です」

と、友田教授は語る。







一連のアドラー心理学の"問題ワード"の中でも、「トラウマは存在しない」というフレーズはもっとも先鋭な対立をはらんでいる。
一方の当事者が前記事、前々記事にみるようにきわめて「能天気」に「人はだれでも幸せになれる」と言い放つのに比べ、
一方の当事者は最も深刻な弱者であり、声を上げにくい。またケアする側も「燃え尽き」を起こしてしまうようなハードな仕事である。

だから実は、ケアする側の人びとにコメントをとって回るのも結構大変なのだ。考えるのも不愉快な問題について、「寝た子を起こす」ようなものだから。


この問題については、『嫌われる勇気』のみならずわが国の代表的なアドラー心理学の学派もまた「トラウマは存在しない」という立場をとっているので、ややこしい。
当ブログとしてはもっとも弱い立場の人に焦点を合わせて「何が幸福なのか」を問いたい。また、困難な仕事をしている支援者の方々の労に報いたい。それは「承認」としても妥当なはずだ。