正田佐与の 愛するこの世界

神戸の1位マネジャー育成の研修講師・正田佐与が、「承認と職場」、「よのなかカフェ」などの日常を通じて日本人と仕事の幸福な関係を語ります。現役リーダーたちが「このブログを読んでいればマネジメントがわかる」と絶賛。 現在、心ならずも「アドラー心理学批判」と「『「学力」の経済学』批判」でアクセス急増中。コメントは承認制です

カテゴリ: 中央会「O!」誌上コーチングセミナー


兵庫県中小企業団体中央会の会報、月刊「O!」に連載中のコラム「誌上コーチングセミナー」第11回。10月号記事を同誌編集部のご厚意により、転載させていただきます。


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「誌上コーチングセミナー」(11)
人手不足時代に勝ち残る「経営」とは

 
 兵庫県内に住む40代の主婦のA子さんは、最近自宅近くの工場と福祉施設でそれぞれ数か月ずつパートとして働いたあと、辞めました。

 理由は「人間関係」。

 工場では、製造課長の人を人とも思わない言動がどんどん息苦しくなっていきました。最後は子供の学校行事のため事前に休暇願を出したところ断られ、辞めることを決断しました。

 福祉施設では、ベテラン職員が明からさまに利用者の悪口を言っているのがどんどん辛くなりました。

 「仕事自体は楽しかったんですが…」

 どちらの職場も人の入れ替わりが激しく、いつも求人広告が出ています。A子さんは今後は事務の仕事に就けないかと思案中です。
 
 別の営業会社のとある営業所。

 ここでは、所長が交代して以来人がどんどん辞め、20人いた営業所が今は16人になっています。

 現所長は部下にまったく関心のない様子。「スキルの低い所員は会社も救済しませんから…」と、どこ吹く風です。前所長の下では士気高く働き、高業績を上げていた営業社員が辞めるのに対してもその調子です。


「離職」という現象に対して、これまでは「根性がない」「辞める人間のほうがけしからん」という見方がされがちでした。

 しかし、「すき家」に代表されるような明らかなブラック企業以外にも、「マネジメントへの不満」は高いと言わざるを得ません。多くの離職は、マネジメントに対する声なき抗議と受け取っていいようなのです。

 「入社3年以内に中卒の7割、高卒の5割、大卒の3割が離職する」という「七・五・三の法則」は有名ですね。

 「入社3か月で約3割が辞めたいと思った」という数字もあります。採用・教育会社の(株)ジェイックが今年7月に新入社員523人を対象に行った意識調査では、入社3か月の時点で新入社員の28%が「離職を考えたことがある」と回答したそうです。

 この調査では、「尊敬する上司・先輩がいる」「自分の成長を気にかけてくれる上司・先輩がいる」という要素が離職リスクを減らすことも分かっています。
 


 今、「マネジメント」に何が求められているのでしょうか。人手不足時代、企業の良い風評を維持し人材を確保するためには何が必要でしょうか。

 当協会は11月7日、三宮にて、過去12年にわたり業績1位を作ってきたマネジメント手法の直近の事例紹介のセミナーをいたします。

 題して「夢物語みたいなこと、言うてもええんですか~承認マネジメント事例セミナー」。

 「科学的方法でかつ簡単に実践できる」とマネジャーたちに賞賛され、かつ、現場の満足度も極めて高く業績向上効果も高い、人手不足時代を勝ち抜くマネジメント手法を体感してみませんか。

 詳細・お申し込みはNPO法人企業内コーチ育成協会HP http://c-c-a.jp/ でどうぞ。


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 中央会様、ちゃっかり記事の中に11月7日の「番宣」も入れてしまいましたのをあたたかくお目こぼしくださいまして、ありがとうございます!

 
 記事にも書きましたように「人手不足解消」のためには「風評」、ばかにできません。

 「あの会社働きやすいよ」という評判がたつのが一番望ましいですが、離職続出でネット上に悪評が出回る、という事態は絶対に避けたいところでしょう。

 ―残念ながら「悪意による悪評のアップ」という現象もありえなくはないのですが―


 生き残りのために良いマネジメント。従来、「風が吹けば桶屋が儲かる」のように遠いロジックのように感じられたかもしれませんが、一度ちゃんと考えてみてはいかがでしょうか。



100年後に誇れる人材育成をしよう。
NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp


 兵庫県中小企業団体中央会の会報、月刊「O!」に連載中のコラム「誌上コーチングセミナー」第10回。4月号記事を同誌編集部のご厚意により、転載させていただきます。

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 「『けしからん!』で済まない現実―若手の集団離職をどう防ぐか」


  気付かないうちに「人」の問題が起きて、成長の足かせになっている…そんな現象があなたの会社にもありませんか?「人」の問題によく効くクスリ、「コミュニケーション」「リーダーシップ」の観点から解決法をお伝えします。


 
 「他部署で若手の同期の子が5人まとめて辞めてしまったんですよ」

 当NPOの会合で、あるマネージャーが話し出しました。

 「もともと、同期の子同士でLINEで連絡を取り合って一緒に旅行にも行っていたらしいんですけど。仕事が忙しくてきつい、もう続かないと、ある日突然まとめて辞表を」


 その部署の事後処理がどんなに大変だったか、想像に難くありません。


 すると、他のマネージャーが「わが社にもありました。仲の良かった子同士が3人まとめて辞めました。幸い私の部署ではありませんでしたが」


 いつの時代にも「今の若い者は」と言われてきたものですが、今、若い人たちの心にかつてない変化が起きています。

 その筆頭は、前回(本誌1月号掲載)にもお伝えした、「スマホ・ネット依存」。

 2013年10月の時点で、スマートフォン(スマホ)使用率は10代で75%、20代は69.5%(ジャストシステム調べ)。その使用の仕方をみると、1日1時間以上使用しているのは41.7%。一般の携帯電話では7.8%と、スマホ使用者の方が使用時間が圧倒的に長くなっています(インターワイヤード調べ)、高校生では、スマホ使用者の53.5%が1日3時間以上使用している(携帯では15.4%)との報告もあります(猪名川町Swing-by調べ)。スマホ使用者の率の高さを考えると、それほどまでに今、若い人はスマホに取り込まれているのです。

 ではそのスマホの世界とは―。

 若い人同士が連絡を取り合う手段の主流になっているLINE。そこではグループ内で仲間のメッセージを読むと「既読」マークがつき、既読がついているのに返事をしなければ、愛想の無い「既読スルー」として、いじめの対象になることがあります。このため入浴中もスマホを手放せず、「寝落ち」といってスマホを枕元に置き眠りにつくまでスマホをやり続けるという。

 なまじ仲間同士のつながりの手段を持つことが、かつてない息苦しい呪縛になるのです。

 このほかにも犯罪につながりかねない出会い系や個人情報の流出など、スマホには地雷原ともいうべき危険が溢れています。

 「今の若い子って、なんだか手応えがなくってねえ」

 TVをつければそうした中高年の識者の声が溢れていますが、若い人たちが子どもの頃から生きてきた現実を見なければなりません。「自分」を持ちたくても持てない、身も細るような世界を生きてきた、ということです。

 それでは、そうした若い人を迎える職場では、管理職・中堅の側では何ができるのでしょうか。

 当協会では、やはり「承認―相手を認めること」を大人世代の方が日々実践されることをお勧めします。

 といいますのは、若い人たちは多くの場合これまで、自分を身近で行動に即して正確に認めてくれる大人に出会ってこなかったのです。「正しく認められること、報われること、成長を促してもらうこと」に飢えており、そうした大人に出会えれば、それはスマホの誘惑より表面的な「仲間」の存在より強い、自らを鼓舞する存在になり得ます。それほど「認められたい」承認欲求は人にとって根源的な欲求なのです。

 冒頭にご紹介した「集団離職」問題でも、上司が1人1人と密にコミュニケーションをとり、事実に即して承認し、リアルの強い繋がりを作っていれば…と惜しまれます。

 当協会の受講生企業からは、新入社員7名に「相互承認」を課すフォローアップ研修を施したところ1年間1人も離職しなかった、という例も報告されており、状況は決して絶望的ではありません。

 「最初の上司は13年後まで給与、昇進に影響する」という研究結果もあります。御社に折角入社された新人に末永く戦力になってもらうため、上司の「育てる力」をパワーアップしていきませんか。


(中小企業団体中央会「O!」2014年4月号)


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 いかがでしたか?

 この記事の締め切りのすぐ後だったでしょうか、大手牛丼チェーン「すき家」の集団一時閉店が話題になりました。一説には待遇のきつさ、時間のかかる新商品の投入などにより不満のたまったバイトの集団離職によるものだとか。

 でも現実にはすき家ばかりではない、足元の神戸にも起きていることなのです。

 この記事を投稿するとき、私は編集部のかたにお電話し

「私は感情的になっているでしょうかねえ。もし間違っていたらおっしゃってください」

 編集部のかたは

「いいんじゃないでしょうか。企業の現実が今こうなっているということは皆さんに知ってもらったらいいので」

 心優しくお返事くださり、そのあとメールで、

「若い人とどこまでコミュニケーションができているのだろうと、不安になりました」。

 この連載も足かけ4年目を迎えました。関係者の方のご尽力に厚くお礼申し上げます。


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 きのうの記事「ええ加減にせえよ小保方さんとメディアは同罪」は、その後どんどんアクセスがつき1日で単独の記事に202件のアクセスがありました。このブログ全体のふだんのアクセスが100−200の間です。昨日のトータルは370でした。

 決して狙って書いた記事ではありません。むしろ「黙殺されるかもな」と思って書いた記事です。


 フェイスブックで「シェア」してくださった面識のない1人の方は、「今日の報道には腹が立ってたんです。すっきりしました」と言われました。
 このタイプの若い子を「みる」ミドルマネージャーや経営者の側は本当に苦虫をかみつぶす思いでみていたと思います。

 あるお友達の方は厳しい口調でコメントくださり(この方は「論語読み」でもあり、日頃幅広い教養に基づく記事を書かれる方です)

「おはようございます。
正論ですね。同感です。
ウインストン・チャーチルが喝破したように「報道と政治はその国の民度を映す鏡に過ぎない」のですから、我々がメディア・リテラシーを向上させメディアが啓蒙するのでは無く我々がメディアを啓蒙する気概を持って臨まねば、「新聞に書いて有ったから」「TVで言っていたから」では大本営発表を鵜呑みにした70年前から一足の進歩もしていない事になります。」

と、言われました。

 いやおっしゃるとおりです。

 とくに、新聞さんの購読層って今一体だれなんでしょうね。

 でもなんだかうちの市の現市長も女性研究者寄りの発言をしてたのだが、この人も「きれいなおねえさん大好き」な人なんだろうか。おねえさんが国民の人気者だ、というふうに風を読んだのだろうか。


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 また、少し若い頃の思い出をかきますと、

 正田は某通信社の広島支社時代、1990年の春、市政―医療担当から県警担当に移りました。

 それまで医療ではほぼ「独壇場」でしたが、県警はまったく調子が違った。「なんじゃこりゃ〜!」の世界でした。人数比が地元紙中国新聞20人、こちら1人。向こうはよりすぐりの精鋭ばかり。当然抜かれまくりました。ボロボロ抜かれ続ける情けなさは初めて経験することでした。

 それでも、少しずつ馴染のおまわりさん、馴染の弁護士さん、を増やしていきます。弁護士さんは比較的ノリが近かったようで、「提訴」とか「結審」とか「判決」の話でネタをもらえるようになりました。

 一方真面目に夜討ち朝駆けをやります。

 「わしら若い捜査官に言うんは、聞き込みで顔見知りのもんばかりに声かけるのはマスターベーションじゃ、言いよるんよ」

 ・・・これは「同じところにばかり夜討ちしたらあかんよ」って言われてるんだろうなあ、と思いながら。

 それでも、真面目に努力すると女の子の記者でも報いてやらなあかん、と思う苦労人の捜査官あがりのおまわりさんというのはいるもので、ぽろっ、ぽろっ、と話してくれます。


 地元紙の中国新聞にとっては、「20対1」の、それも自分が加盟社でないところの通信社に「抜かれる」というのは嫌なものだったでしょう。年間何回かは抜きました。とくに「橋げた落下14人死傷事故」という、そのときの年間最大の事件で、発生と原因とを科捜研と1課から抜いたのは、中国さんには痛かったみたいです。すみませんまたコップの中の嵐の話で。一応、医療報道ばかりでもなくて社会部記者の「王道」、警察回りもしてたんです。あんまりこの手の話をこれまで書かなかったのは、事件事故の報道は結局人様の不幸をほじくる話なので自慢したくない、というのがはたらいていたからです。

 で嫌われるかというとそうでもなくて、結構他社同士「こいつよくやってるな」と思うと仲良くなるもので、(はい、自社の記者は結構ジェラシー目線でみるんです。記者ってナルシシストだしジェラシーきついですよ)中国新聞の県警サブキャップには可愛がってもらいました。その人は私が神戸で結婚式を挙げたときも出席してくださり、

「嫌なライバルだったが公明正大にさわやかに闘う記者だった」

なんて、祝辞で言ってくれました。

 今はああいう懐の深い先輩記者っていうのももういないんだろうなあ。 ドリカム、マライアキャリーが出てきたころです。


 まあ、そんな「20対1」の仕事の仕方をしてきたので、それは単に夜討ち朝駆けをしましたというだけではなしに、対象に本気で肉薄するような仕事をしていたと思います。だから、今記者さんに取材を受けても、「このひとは社会人としてどれぐらいギリギリの努力をしたことがあるひとだろう」というのはつい、見てしまいます。(もちろんわたしも、記者にかぎらずそういう経験をしてきたひとからはそういう目でみられているだろう、と思います。)


 冒頭の記事のような「集団離職」の話を聴いたら、「えっ、本当ですか」「それ神戸ですか」「どこの会社ですか」って、私の若い頃だったらきいたと思いますね。書く書かないにかかわらず。無駄な「書いてやる目線」のプライドがあるから、身体の直感が正しくはたらかない。ピリッ、とどこかが震えたり前のめりになるということができない。


 その後今の仕事をしながらでもなにをやっていても思うんですが、「こいつは『本気』でやっている」と思うと、姿勢を正してくださる人って今でもそこここにいらっしゃいます。多くはその人自身苦労してきて、「本気」じゃないとなにごとも成せないな、と学んできた人たちです。そして一方には、「本気」が永遠に通じないタイプの人もいらっしゃり、残念ながらそういうタイプの「バーチャル」な人が今、増えているなあ、意思決定の中枢にも、と思います。


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 ああまた電話口でよく考えないでペラペラしゃべる人と話をした。会議会議で忙しいらしいけれどこの人のような調子でしゃべる人ばっかりだったらさぞかし中身の薄い会議だろうな。しかもまた私と小保方さんと混同しているふしがある。混同しやすい頭の持ち主っていますから。



100年後に誇れる人材育成をしよう。
NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp

 兵庫県中小企業団体中央会の会報、月刊「O!」に連載中のコラム「誌上コーチングセミナー」第9回。新年号原稿を同誌編集部のご厚意により、転載させていただきます。

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 「ネット・スマホ依存があなたの会社を蝕んでいる!?」


 気付かないうちに「人」の問題が起きて、成長の足かせになっている…そんな現象があなたの会社にもありませんか?「人」の問題によく効くクスリ、「コミュニケーション」「リーダーシップ」の観点から解決法をお伝えします。

 
「社員同士でオンラインゲームをしている」
「休憩時間にはトイレでスマホ操作の音がしている」
「勤務時間中の一時退席が異常に長い。たばこ休憩ではない」
「原因不明の頭痛を訴え無断欠勤が続き、退職」

 あなたの会社には、今どの程度こうした現象が出ていますか。

 これらは決して倒産寸前の特殊な企業に起きていることではありません。優良企業といわれる企業にも今、スマートフォン(スマホ)やインターネット(ネット)の操作をやめられない「スマホ・ネット依存」(以下「ネット依存」と略)が深刻なリスクになってきています。

「若い派遣社員が返事だけはいい。しかし仕事の覚えが非常にわるく、教えたことをすぐ忘れ、ミスが多い」(製造業現場リーダー)

 生まれつき物覚えの悪い人も、従来から一定数はいます。しかし、かつてはご本人の性格的な問題だけだったものが、今日では本来物覚えのいい人であってもスマホやネットのオンラインゲームやLINE、フェイスブックなどのSNSでのメッセージのやりとりに気を取られるあまり、仕事に集中力を欠いているという現象かもしれないのです。

 「集中力を欠いた労働力」がつくる仕事の品質はさあ、どのようなものになるでしょうか…。

 子どもの世界では、一足先に深刻な「ネット依存」が広がりをみせています。厚労省研究班が2012年から13年、中高生計10万1千人を対象に行った調査では、約8.1%がインターネットへの依存度の高い、「病的使用」とされ、全国では約51万8千人が病的使用状態にあると推計しています。若者のネット依存やいじめなどの問題に詳しい兵庫県立大学准教授の竹内和雄氏は、予備軍的なものも含めると中高生の3人に1人は「ネット依存」の傾向があるだろうと語っています。

 大人のネット依存は最近注目され始めたばかりで、まだその全体像がわかっていません。しかし、冒頭のようにネット依存をうかがわせる現象が、昨年ぐらいから筆者にもちらほら耳に入るようになりました。重症になると1日8時間続けて徹夜でオンラインゲームやSNSをし、無断遅刻や無断欠勤にもつながります。

 また、ネット依存ほどでなくても、ここ数年、ネット上で有名人にSNSで簡単にアクセスできるようになったことから、「身近な上司を尊敬しない」という現象も生まれてきています。

 非常に憂慮すべき状態ではありますが、この状況にどんな対策を講じることができるでしょうか。

「日本の若者がダメだから外国人を採用すればいい」

というのは短絡的に過ぎる議論。若者のネット依存は日本だけでなく、先進国〜BRICSに共通してみられる現象です。

 根本的には、本コラムで繰り返し推奨している「承認」(認めること)が重要でしょう。ネットに逃避する若者は、現実世界に対して何らかの不満を抱えていることが多いといわれます。本人の小さな成長やチャレンジを励まし、評価してやる。正しい提案を握りつぶすような「組織の不合理」をできるだけ排除してやる。そうして現実世界と格闘することのおもしろさを若者に学ばせることが、現実逃避の最大の予防になります。

 それでもだめな場合は…、ネット依存による無断遅刻、無断欠勤、ミスの頻発などは、原因に関わりなく「普通解雇」の事由になる、というのが、現在のところ企業法務に詳しい弁護士の先生の見解です。

 文明の利器である、ネットとスマホ。その賢明な使い方とともに、企業社会、大人社会のあり方も問われています。(了)

(兵庫県中小企業団体中央会「O!」2014年1月号所載)

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 いかがでしょうか。

 短い原稿ですが、今回は大変書いていて気が重く、執筆がすすみませんでした。

 ネットに耽溺して人生の中のもっとも柔軟な時期を過ごしてしまった若者のその後の人生はどうなるのだろう…。

 若者をユーザーとするネット社会を構築するIT企業の企業姿勢も問われるでしょうし、LINEなどでのべつ繋がっていなければ気が済まない若者の人間関係のあり方も問われます。どちらも簡単にはいかない問題です。

 
 そして最終的なツケは企業社会に行き、企業にとってのセーフティネットは上の記事にあるように「普通解雇」になるのでしょうが、そこで切り捨てられたニート予備軍のドロップアウト組の若者が大量発生するおそれがあるのです。


 業種でいいますとこうした「ネット依存」は発達障害の問題と同様、特定の業種に典型的にみられるのです。ところが地域のその業種の団体(私自身会員でもある)に相談に行こうと思ったら以前にもここに書いたように出てきた傾聴能力ゼロの担当者と漫画のように見事に話がかみ合わず、その話題にたどり着くことすらできなかったのでした。

 中央会様の「O!」に発表場所を持てて幸いでした。

 
 「承認」が解決できる諸課題、以前から書いているワークライフバランス、女性活用、障害者雇用、グローバル経営、パワハラ、メンヘルなどなどの効能書きに、これで「ネット依存」も新たに加わったわけですけれども、決して喜べる話ではありません。単純に「承認」だけで解決できる問題でもなく、企業として腰を据えた取り組みがいるのです。その「腰の据わった取り組み」をする気力のない企業は、安易に「普通解雇」に走ることになるでしょう。

(それは社会的責任の問題にもなりますが何よりも、しっかりした若い人の採用ばかり考えてそれ以外無策であれば、社員が入社したそばからリアルよりネットの魅力に魅入られていき退職に追い込まれる、ということになり、採用、新人教育、に永遠に振り回され重いコストを背負うことになるでしょう)


 そうして、この社会には、「生産年齢人口」(c:藻谷浩介氏)の人びとのその中の砂金のような、「非ネット依存生産年齢人口」の人びとで回さざるを得なくなるかもしれないのでした。アリ一匹でキリギリス9匹を養うようなもの、といえるかもしれません。

 どれだけ生産性高くやらないといけないことやら。



100年後に誇れる人材育成をしよう。
NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp

 
 兵庫県中小企業団体中央会の会報、月刊「O!」に連載中のコラム「誌上コーチングセミナー」第8回。10月号原稿を同誌編集部のご厚意により、転載させていただきます。

 問題の「半沢直樹」が出てきます。懺悔懺悔。


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 新型リーダーは40代から―「半沢直樹」の部下はなぜ忠誠心厚いのか?


 気付かないうちに「人」の問題が起きて、成長の足かせになっている…そんな現象があなたの会社にもありませんか?「人」の問題によく効くクスリ、「コミュニケーション」「リーダーシップ」の観点から解決法をお伝えします。

 

「われわれの20代がバブルでしたが、今考えると、野蛮な仕事の仕方をしていたと思いますよ」

 ある会社重役の方が語りだしました。

「右肩上がりの時代、仕事はほっといても向こうからやってきた。当時は携帯電話もなかったですから、『お客様からの受注電話を受けたくなかったから、勤務中に喫茶店で油を売っていました』なんて平気で担当が言っていた」

 ―なんと、今から思うと天国のような時代ですね。

「…そんなだから『マネジメント』などありませんでした。『やっとけ』『つべこべ言わずに寝ずにやれ』それで良かったんです」

 その時代の記憶があるからでしょうか。ある世代から上の方に、「コーチング」や「承認」をいくら説いても理解されないのは。(加えてワークライフバランスも)

 当時はグローバルにも日本の価格優位、品質優位があり、意を決して世界に売り込めば売れた。そこでは「蛮勇」による推進力がものを言い、失礼ながら、「リーダーシップ=男性的な蛮勇力」と理解されてきたところがありました。

 また今年、スポーツ指導の「体罰」の問題もクローズアップされました。スポーツの種類にもよりますが、大企業の管理職以上に多い「体育会系」の人々にも、暴力で後輩・部下を従わせる気風は色濃く残っているといわざるを得ません。それは抜きがたい一種の「美学」のようなものです。

 ところで、この夏から秋にかけて大人気を博したTVドラマ「半沢直樹」。銀行を舞台に陰謀、悪徳と良心的企業の間に立って闘うスリリングなストーリー、上司の理不尽に「やられたらやり返す、倍返しだ!」と胸のすくセリフ。筆者と同様、お茶の間で快哉を叫んだ方も多かったことでしょう。

 どんなピンチにも一縷の光明を見つけていく主人公半沢直樹の行動力もさることながら、半沢の「部下」―銀行員たちが、見事なアンサンブルで半沢のために働くこと。「あんな部下が欲しいなあ」現役ビジネスマンからもそんな声がきかれました。

 
半沢直樹の部下は、なぜ忠誠心厚いのか?

「フィクションだから」は当然一つの答えでしょう。しかし、人々の心を惹きつけるエンターテインメントには、時代の気分を正確に映し出しているからこそ一抹の真実が宿ることがあります。

やはり「半沢直樹」が登場する同じ作者の小説でTV版の続編『ロスジェネの逆襲』には、バブル世代の半沢から30代の部下へこう語りかけています。

「お前たちには、社会に対する疑問や反感という、我々の世代にはないフィルターがあり根強い問題意識があるはずだ。世の中を変えていけるとすれば、お前たちの世代なんだよ。
…だが、世の中に受け入れられるためには批判ばかりじゃだめだ。誰もが納得する答えが要る。」

「正しいことを正しいといえること、世の中の常識と組織の常識を一致させること、ひたむきで誠実に働いた者がきちんと評価されること」・・・


 「半沢直樹」の原作の作者、池井戸潤氏は筆者と同じ1963年生まれの50歳。

 リーダー教育をしている実感としても、今の50歳より下の世代は「コーチング」「承認」の教育に対して感度がよいと感じます。あまり抵抗感なくすんなり学習し、職場で実践し、良い成果を報告してくれる。筆者の駆け出しの10数年前、「団塊世代」やそれに続く現在の50代以上の人々相手の教育に苦労していたころとは雲泥の差です。
 「グローバル化時代」とは、言い換えれば「混戦状態の団子レースをいかに勝ち抜くか」。粗雑な戦い方では到底勝てません。新型リーダーたちに期待し、旧来のリーダーシップ-マネジメント観の一刻も早い脱却を願う次第です。
 
 
(兵庫県中小企業団体中央会会誌「O!」2013年10月号所載)

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 一抹の真実も宿るが一方それゆえに、つまり「ひびく」がゆえにこころの中の悪しきものを増幅してしまうこともある・・・うんうん。

 「半沢ネタ」を便乗で取り上げたことの言い訳になりますが、1つ前の記事「土下座の流行、ケアマネさん研修、攻撃性の制御の話」の内容とのからみで言うとそういうことになるでしょうか。


 やっぱり攻撃性は「下」の人に向けて使ってはいけません。半沢自身は、ちゃんとそれを実践しています。だからかっこいいんです。


 ・・・こんな当たり前のことをわざわざ言わなきゃいけないなんて・・・


 1つ前の記事についてはフェイスブックで議論になり、あるお友達は「自分は『半沢』を1回みたがあまり好きになれずスルーしてしまった。攻撃性を煽るような演出がイヤだったのかもしれない」という意味のことを言われました。
 正田は結構好きでみていたのは、元々「ウルトラマン」とか闘うヒーロー物がすきなこどもだったのでそれの延長で楽しくみてしまったのかもしれない。あれですね、「人は自分の性向を助長するような種類の刺激に曝露することを好む」というフレーズを自分でやってますね。


 そして「エンタメあなどるまじ」と思うのは、少し前にも「海賊と呼ばれた男」が流行ると、それ的な天衣無縫なリーダー像を理想とする(よって、「承認」なんて辛気くさいことは小ばかにする)ビジネスマンが出現したようなこともあり、結構皆さん笑いごとでなく影響を受けるのです。

 
 さて、「半沢」も「あまちゃん」も終わった今クールは労働基準監督署を描いた「ダンダリン」(水曜夜10:00〜、読売TV)をみるようになりました。竹内結子がすぐうなる女監督官をやっています。なんだかんだ言って闘うドラマはすきなのだ。



100年後に誇れる人材育成をしよう。
NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp 

 兵庫県中小企業団体中央会の機関誌「O!」に連載中のコラム「誌上コーチングセミナー」。
 7月号には、「日本人の勇気と自信はどこから生まれるか」と題して掲載していただきました。
 同誌編集部のご了解をいただき、こちらに転載させていただきます。


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 気付かないうちに「人」の問題が起きて、成長の足かせになっている…そんな現象があなたの会社にもありませんか?「人」の問題によく効くクスリ、「コミュニケーション」「リーダーシップ」の観点から解決法をお伝えします。



「日本人が自信を失った」「日本の自信を回復せよ」

 今、よく言われるフレーズです。

 このことを裏付けるかのように、日本の高校生は米中韓と比べて圧倒的に自信が低い。そんな調査結果があります。自分を価値ある人間と思う自尊感については、米中韓の半分以下の水準。そして「自分はダメな人間だ」「自分の将来に不安を感じている」そして「人並みの生活ができれば十分だ」といった回答率が高い (日本青少年研究所、「高校生の生活意識と留学に関する調査−日本・アメリカ・中国・韓国の比較−」2012年4月発表)。

 「今の若いヤツには根性がない」と思われるかもしれませんが、「自信が持てない」のは、決して高校生だけではありません。社会人を対象にした調査でも、「自分の仕事の能力に自信がある」と回答したのはアメリカ人が94.6%だったのに対し、日本は45.9%とほぼ半分でした(NPO法人GEWEL調査、2010年)。

 大人も若者も自信喪失。グローバルの競争では日本の10分の1のコストで対抗してくる新興国との市場争いで、高品質日本の自信も揺らぎます。今年になって、日本人特有の「不安感」も指摘されるようになりました。そして、経済低迷の原因として「モチベーション不足」とならび「イノベーションが不足」と言われて久しい日本経済です。

 さあ、この悪循環をどこで断ち切ることができるでしょうか…。
 


 前回(4月号)でご紹介した「承認大賞」。今年また新しいエピソードが届きました。

「自分から積極的に声を出したね」これも、舞台は介護福祉施設です。

 新しく仕事に就いたものの、緊張感が抜けず、蚊の鳴くような声で話す新人職員。そのまま1週間が過ぎたころ、この彼が「今から申し送りを伝えます」と、はっきりした声で言いました。

「自分から積極的に声を出したね」

 上司はシンプルに「行動承認」の言葉を返しました。

 新人クンは、予想外の言葉に「はっ」とした顔になり、そしてみるみる笑顔に。

 きっと、自分の精一杯のチャレンジを上司が好意的に、かつ大げさでなく過不足なく受け止めてくれたことで安心感でいっぱいになったのでしょう。

 その後も口を開くときに「よろしいですか?」「今から○○を伝えます」と枕詞をつけ、自分で自分の緊張感を和らげて発言するようになりました。そして先輩に質問し、目をキラキラさせてメモをとる姿がありました。…


 本コラムの中でも繰り返しお伝えする「承認(認めること)」。人が働く動機づけの中の最大のものは、「他者から認められたい」という「承認欲求」だといいます。とりわけ、不安感が高く人とのつながりの中に安心感と幸福感を感じる日本人の場合、「認められる」ことにより獲得する「勇気と自信」は想像以上に大きいのです。

 今年、当協会は「第3回承認大賞」の募集を開始いたしました。同時に、「承認」のさまざまな場面、さまざまな効用をご紹介するため、「承認大賞ハンドブック2013」を刊行いたしました。この中には、イノベーションを後押しする上司の言葉(製造業・研究職)、女性営業を社内MVPに押し上げた上司の期待の言葉(広告代理店・営業職)、潰れかけていた先生を蘇らせた校長先生の力づけの言葉(高校)など、過去の「承認大賞」の代表的なエピソード9例を載せています。

「第3回承認大賞」の詳細とご応募はhttp://shounintaishou.jp (「承認大賞」でご検索ください)まで。
またハンドブックは1部200円。10部以上のお申込みで送料無料となります。メール info@c-c-a.jp まで、お名前・ご住所を添えてお申込みください。



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 今回の記事は思い切り当協会のイベントの「番宣」のようになってしまいました。

 温かくおゆるしいただいた編集部様のご厚意に感謝いたします。



100年後に誇れる人材育成をしよう。
NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp


「第3回承認大賞」募集ページはこちら!あなたのエピソードを教えてください

http://www.shounintaishou.jp

「承認大賞ハンドブック2013」ご紹介ページはこちらです

http://blog.livedoor.jp/officesherpa/archives/51861106.html
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 兵庫県中小企業団体中央会の会報、月刊「O!」に連載中の「誌上コーチングセミナー」第6回。


  同誌編集部のご厚意により、転載させていただきます。

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 気付かないうちに「人」の問題が起きて、成長の足かせになっている…そんな現象があなたの会社にもありませんか?「人」の問題によく効くクスリ、「コミュニケーション」「リーダーシップ」の観点から解決法をお伝えします。



「わからないことを訊いてくれたね。」

 これは、2011年に「承認大賞・上司部門」に輝いた、職場のある先輩から後輩への言葉です。

 (補注 「承認大賞2011プロジェクト」の全受賞例はこちらをご参照ください
   http://www.shounintaishou.jp/) 


 読者の皆様の職場にも、初々しい仕事ぶりの「新人さん」が入ってきたでしょうか。

 ところで、「不吉なことを言うな」とお叱りを受けそうなことを言いますと、学卒新入社員の離職率は、中小・零細企業へ行くほど高いのです。平成21年度入社の人の3年後離職率は、従業員30〜99人の規模の事業所で37.9%、同5〜29人の事業所で49.8%。5人未満の事業所ではなんと59,8%に上っています(厚労省「新規大学卒業者の事業所規模別卒業3年後の離職率の推移」)30人以内の中小企業ではせっかく採用した人の2人に1人は3年以内に辞めてしまうことになります。

 せっかく手間暇をかけて採用し、仕事を教えてきた人が戦力になる前に去ってしまったら…、大変な「見えないコスト」になりますね。

 さあ、今年入社した新人さんに定着してもらうにはどうしたらいいのでしょうか。

 ここで、「決まっているだろう!今時の若者には根性が無さすぎるんだ」と言っているあなた。実は、新人の早期離職について、「根性」以外の要因が大きいことがわかってきました。

 1つには、現在の職場が忙しすぎ、1人の人がカバーする範囲が広すぎ、また内容が高度すぎる。例えば営業では、単純にモノを売って買ってもらえればいい、あるいは同じ商品やサービスのルート営業だけしていればいい、という業種は減りました。お客様の仕事の中身を知り、じっくりお悩みをきいた上でお客様の期待を超えるような「提案営業」をしなければなりません。1年生ですぐに売り上げを上げられる世界ではなくなったのです。

 また、単純なものづくりだけしていればいいという仕事も少なくなり、高いレベルのコミュニケーション能力に基づくチーム作業が求められています。

 仕事自体が高度になっている一方、上司・先輩はそれに応じた育成スキルを持っているとはいいがたく、仕事の高度さと新人さんの「現在」をつなぐ役割を果たしているとはいえません。これが新人さんを孤立させてしまいます。

 ここは、思い切って「上司・先輩は、教え方を含めた『コーチング』を!」と、声を大にして言いたいところです。
とりわけ当コラムでいつもご紹介している「承認(=認める、ほめる)」。相手の状態をよく見、現在の相手のステージを「認め」、小さな成長を「認め」、「励まし」、雑用であっても、仕事の意味・目的を「説明し」、それを丁寧にやりとげることが全体に与える効果を「伝える」。こうして新人さんの「全体に役立っている」という「自己効力感」を高めてやることができます。

 また、職場で仕事の指導役になった人(上司、先輩、メンター)は、1日1回は新人さんと会話をし、その人の進捗を「聴いて」やりましょう。指導役を1人だけに任せるのではなく、上司が第一責任者とすればそれ以外の先輩も少しずつ声掛け、ちょっとした説明、フィードバック(褒めと注意)などで新人さんと関わることも大事です。

 冒頭の「わからないことを訊いてくれたね」とは?―これは、職場の先輩が新人さんに「わからないことは遠慮せずどんどん訊こうね」と言っていたところ、数日後本当に仕事のことで質問してきたので、その質問した行為を「承認」した言葉です。新人さんは心強く思ったのかその後もどんどん質問してきてくれ、1年後には非常に高度な仕事のできる優秀な職員さんになったそうです。

 今の若い人を「ワンピース世代」と呼び、組織に束縛されず自由を重んじ仲間を大事にする特有の価値観をもっている、との見方もあります。しかし、こうして上司・先輩の働きかけが功を奏するところをみると、決してそれは越えられない価値観の段差ではないのです。(了)


(兵庫県中小企業団体中央会「O!」2013年4月号 所載)



100年後に誇れる人材育成をしよう。
NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp


 


 兵庫県中小企業団体中央会の会報、月刊「O!」に連載中の「誌上コーチングセミナー」第5回。


  同誌編集部のご厚意により、転載させていただきます。


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 気付かないうちに「人」の問題が起きて、成長の足かせになっている…そんな現象があなたの会社にもありませんか?「人」の問題によく効くクスリ、「コミュニケーション」「リーダーシップ」の観点から解決法をお伝えします。



 管理職研修の中で、参加者の皆さんに「あなたの会社の『組織図』を書いてみましょう」
 
とお願いすることがあります。

 大きめの紙とペンを渡し、

「あなた自身を真ん中に『私』と書いてください」

「次に仕事でやりとりのある周囲の人を書きこみます。『〇×工場長』など、職制だけでなく名前も入れるように」


 10分ほどお時間を差し上げて、書いていただくと・・・。


 単純な作業なのですが、面白いようにその人の周囲の人との関係や感情があぶり出されてしまいます。


「〇×工場長」「△△専務」をすぐに大きく書きこんだ人。上司である自分の部門トップを、自分と真横の水平の位置関係に書きこんだ人もいます。

 そして、そのあと。

 ある人は、「部下」を、名前を入れずただ「部下」と、数人並べて書いていました。


「部下の方には名前はないんですか?めんどくさいなんて言わないで、部下の方にも名前を書いてあげましょうね」

 それを目にするたび、私はなるべくやんわりと言います。しかし、「たかが名前」と言うなかれ。このことが大きな意味を持っているのです。

 研修前に受講生の部下たちのモチベーションをみるためにとったアンケート調査では、こうした「部下」に名前を記入しない管理職の部下は軒並みモチベーションが低いことが多いのです。


 この連載で繰り返し出てくる「承認=人の行動や存在価値を認める行為」では、人を「名前で呼ぶ」は、承認の基本の「き」に当たる重要なこと。「存在承認」といって、相手がそこに在ることを認める、受け入れていることを示す行為です。名前を呼ぶのは相手を仕事上の能力や機能だけではなく、1人の人としてリスペクトしている、認めていることを表します。部下を名前で認識しない、「部下」という機能で認識するのは、人として認めていないことになります。

 こうした「まず上司を大きく書き、部下を名前抜きで小さく書く」管理職は、おそらく上司の顔色ばかり気にし、部下の気持ちをまったく考えない「ヒラメ型上司」であることが大いに考えられます。そうした無意識の感情は、部下にははっきり伝わりモチベーションに影響を与えます。こうした人の中には研修の中で非常に高いコミュニケーション能力を発揮する人もいるのですが、研修で上手に出来るかどうかよりも職場での部下に対する人としての意識のほうがまず重要です。

 最近のベストセラー『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』で、「ザ・ボディショップ」「スターバックス」のCEOを務めた著者の岩田松雄氏は、「現場、そして弱い人たちを大切にする」ということを繰り返し挙げました。また、近年の複数の調査では、日本企業の従業員のモチベーションが先進国の中でも際立って低いこと、それはリーダーシップの問題であり日本企業の低迷はリーダーシップの欠如に原因があることが浮き彫りになっています。

 そろそろ本気で「やる気を高めるリーダーシップ」を考えませんか。


(兵庫県中小企業団体中央会「O!」2013年1月号 所載)


100年後に誇れる人材育成をしよう。
NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp


兵庫県中小企業団体中央会の会報、月刊「O!」に連載中の「誌上コーチングセミナー」新装第4回。

 前回(当ブログで9月11日掲載分)、「褒める」ことが人を伸ばす効用を取り上げました。しかし、「褒める」だけで人を伸ばせるか?というと、そうではないですよね。バランスをとるために、今回は「叱る」のお話を。

 同誌編集部のご厚意により、転載させていただきます。


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 気付かないうちに「人」の問題が起きて、成長の足かせになっている…そんな現象があなたの会社にもありませんか?「人」の問題によく効くクスリ、「コミュニケーション」「リーダーシップ」の観点から解決法をお伝えします。(リード文以上)


 前回のこのコラムで、「『褒めると伸びる』を知っていると強い!」ということを、心理学の「行動理論」を絡めてお話しました。

(注 http://blog.livedoor.jp/officesherpa/archives/51826124.html 

 ところで、仕事の中では褒めてあげられることばかり起こるわけではありません。お客様や組織、仲間に不利益になる行動をとってしまう場合もあります。そんな時はどうしたらいいのでしょうか。

 当協会では「承認」(認める、褒める)を学ばれた方を対象に「叱り方」の研修を行い、マネジメントの「規律・規範」の維持に大いに役立てていただいています。

 その一端をご紹介しますと…。

 「叱り方」プログラムを受講された、大手メーカー人材育成部門に勤めるAさん。研修翌日に、「さっそく職場で使いました」とメールをくれました。

 場面は、Aさんの部署に新しく配属された同僚がAさんに挨拶してきたとき。この同僚は若くして出世が早かった人だそうですが、「これからよろしくお願いします」という口調や態度が、半ばからかい口調、小馬鹿にした態度であった。

「なんだその態度は!」Aさんは、いきなり怒鳴りつけたといいます。これまで「承認」をとても大切にされていた心優しいAさんが。

「えーっ、大丈夫ですかそんなことを言って」

教えた私も息をのみました。しかし、Aさんによると大丈夫。この同僚はその後、態度を改めたそうです。

 プログラムの中では現役マネジャーたちの「こんな場面で叱る」という声を幾つか紹介し、そのうちの一例として「緊張感のない時、礼儀作法のなってない時に叱る」というものがありました。それを早速実践したAさんでした。(くれぐれも、読者の皆様は「乱用」されないようお願いします)


 べつの受講生Bさんは工場の総務部長。研修後の職場で、部下のうち2人が口論になっていた。Bさんは2人の話をじっくり聴き、「何が事実か、2人が共通して事実だと認めていることは何か」を紙に書きとめ、「これを見て2人でどうしたらいいか考えなさい」とその紙を残して部屋を出ていきました。すると、「事実関係」を目で見て共有(「見える化」ですね)した部下たちは、その後解決方法を考え出しそのとおり実行したそうです。

 こちらは、「叱る」というより、「事実は何か」「事実認識」に重点を置いた研修の内容を応用し、さらにコーチングの「答えは相手の中にある」、相手自身に考えさせることを組み合わせた例です。

 人を伸ばすということは、決して褒めることだけが道筋ではありません。「後悔」することも脳を活性化し、成長させることがわかっており、その「後悔」をいかに効果的に行わせるか、が大事です。

 今回は「叱る」という行為をお伝えしましたが、「後悔」を効果的に行ってもらうためであれば、「質問を投げかける」ことでもいいのです。「どうすれば良かったと思う?」「次回はどうする?」ニュートラルな調子でこうした問いを投げるほうが「叱る」よりも効果のある場合があります。

 ただし、わたしたちは自分の成長のきっかけとして「叱られた」「強いショックを受けた」ことの方を強く記憶してしまいやすいのです。これは脳の「ネガティブ・バイアス」という現象です。

 実際には褒められたり感謝されて嬉しかった気持ちから成長できたことも多いのに、記憶に残っている上司や指導者のエピソードとしては「叱られた」ことしか残っていない。これは、ネガティブな体験のほうが生存に関わる情報なので、忘れられないというバイアスなのです。

 だからこそ、人を育てる、伸ばす立場になったら、行動理論の「褒めて伸ばす」ことの効果を学び、わたしたち自身の記憶のバイアスにとらわれずに人を指導できるようになりたいもの。それを知っていないと、「叱ってばかりで、良いことを褒めることをまったくしない」指導者になってしまいます。

 職場の良い人間関係を保つ「良いフィードバック:悪いフィードバック」の比は「5:1」だそうです。読者の皆様は、この数字をどうかくれぐれもお忘れなく。(了)

(兵庫県中小企業団体中央会会誌「O!」2012年11月号所載)

 兵庫県中小企業団体中央会の会報、月刊「O!」に連載中の「誌上コーチングセミナー」新装第3回。

 今回は、ある中小企業での若手育成の取り組みと、行動理論の「褒めて伸ばす」をとりあげました。
 同誌編集部のご厚意により、転載させていただきます。


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 気付かないうちに「人」の問題が起きて、成長の足かせになっている…そんな現象があなたの会社にもありませんか?「人」の問題によく効くクスリ、「コミュニケーション」「リーダーシップ」の観点から解決法をお伝えします


「われわれ中小企業に来る若い人は、いいところを見つけて褒めて伸ばすしかないんですよ」
と、製造業経営者のTさん(67歳)。
 Tさんは社員20名ほどの鋼材加工の会社の社長。大企業から中小企業の経営に転じ、中小での人材育成の難しさをいやというほど味わってきました。「褒める」ということに出会ったのは60歳を過ぎたころだったといいます。
 今年入社した新人について、Tさんが採用したのは「ノート方式」でした。
「それぞれに大学ノートで『教育訓練日誌』を作り、毎日本人に記入させ課長、私と目を通しコメントをします。幼稚園や小学校で先生と生徒の『連絡帳』というのがあったでしょう?あれと同じです。」
 小学校時代に戻ったかのような、連絡帳のやりとり。社長も課長も毎日のことで大変だ、というのですが、
「今の若い人は、人の話を聴いてないですね。すぐ『きいてなかった』『教えてもらわなかった』という。だから連絡帳です。機械の操作の手順まで本人に書かせます。こちらからは、進捗状況に応じて注意すべきことを列記。『わからなかったことは自分から訊くように』ということは、何度も言います。仕事の中で気になったこともその日に注意します。あとから言ったらダメですね」(Tさん)
 IT時代に育ち、注意力散漫な現代の若い人。大学でも私語や携帯メールのために授業が成り立たないところがあるといいます。そんな若者の現実に鑑み、知恵を絞った結果がこのやり方。そして「良いところを見つけて褒める」という、これも時代の流れでしょうか。
 
 さて、こういう気づきに至った経営者さんは、決してまだ多くありません。
 過去の成功体験に縛られていると、なかなか「今の子」についての解はみえてこないもの。思い切って手放し、虚心に現実を見つめたいものです。
 
 ここで、「なぜ、人を育てるのに褒めることが必要なの?」首を傾げる読者のかたのために、「褒めると伸びる」という現象について、簡単にご説明しましょう。当コラムで繰り返し強調する「承認(認める、褒める)」という手法の中でも、「良い行動を褒める」は重要な柱です。
 心理学の行動理論(学習理論ともいう)の中に、「人は、ある行動のあと褒められると、その行動を繰り返しとる性質がある」(強化)という原理があります。ある行動をとって、その結果よいことが起こる。人から褒められることは嬉しい刺激ですし、ほかにも相手が返事をする。何らかの良い結果が得られる。お金や物のご褒美をもらう、なども、嬉しい刺激となり、それを励みにその行動をその後も繰り返し頻繁にとるようになるのです。脳科学で「強化学習」というのも同じ原理です。
 この性質を利用して、人にある行動をしょっちゅうとってほしければ、その人が一度でもその行動をとったときにすかさず褒めてあげればよい。これを繰り返すと、より複雑・高度な行動を自発的にとってくれるようになり、これを「形成化」といいます。人は多くの場合、こうしたプロセスで成長していくのです。
 読者の皆様も、「だまされたつもりで」まわりの人の良い行動を褒め、そのあとの行動の変化を観察してみてください。
 「褒める」ことには、「行動を褒める」のほかにも様々な種類があります。ただ、行動でなく人格や才能を褒めたとき、「人を伸ばす」ことにはつながらないので注意が必要です。「あなたは賢いね」ではなく「頑張ったね」と褒めてあげたほうが、その後も恐れずチャレンジをする人になることも実験でわかっています。
「伸ばし上手」「褒め上手」になってみたい方は、まずは基本の「良い行動を褒める」ことからトライしてみてはいかがでしょうか。


筆者プロフィール・NPO法人企業内コーチ育成協会代表理事。1963年生まれ。
通信社記者、医薬翻訳者を経て2001年、ビジネスコーチ開始。特に管理職育成を得意とし、非営利のマネージャー教育により全国1位、社内1位といった「トップマネージャー」を輩出。
2008年より現職。よのなかカフェ、承認大賞といった社会人教育のイベントも主催する。
著書に『認めるミドルが会社を変える』(カナリア書房)など。
NPO法人企業内コーチ育成協会
URL:http://c-c-a.jp
電 話:078−857−7055
メールアドレス:info@c-c-a.jp



【月刊中央会「O!(オー)」2012年9月号 所載

 兵庫県中小企業団体中央会の機関誌「O(オー)」に不定期連載中のコラム「誌上コーチングセミナー」。


 新装第2回は、中国・宋の時代を題材にした「改革者」のお話です。同会編集部のご了承をいただき、こちらに転載させていただきます:


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「決める人とそうでない人――聡明なリーダーが陥りやすい『決断依存』のワナ」


 気付かないうちに「人」の問題が起きて、成長の足かせになっている…そんな現象があなたの会社にもありませんか?「人」の問題によく効くクスリ、「コミュニケーション」「リーダーシップ」の観点から解決法をお伝えします。



 司馬光と王安石。11世紀の中国・北宋の時代に、ふたりの優れた政治家がいました。

 何故いま北宋時代?と思われそうですが、現代に当てはめて考えるとなかなか面白いのです。

 王安石は、バリバリの改革者。この時代の宋は、軍事費の増大、無駄な官職の増大(冗官)、貧富の差の拡大により、ドラスティックな改革は待ったなしの情勢でした。

 そこへ登場したのが、下級官僚出身で「新法派」の王安石です。1067年に即位した若き皇帝・神宗の下で皇帝の側近である翰林学士に、また2年後には副宰相となり、実質的な政治実務のトップとして辣腕を振るいます。

 王安石の下では、農業改革として「青苗法」「募役法」「農田水利法」など、商業改革として「均輸法」「市易法」、軍事改革として「保甲法」、「保馬法」その他科挙改革や官僚改革にもさまざまな立法や制度改革を行いました。趣旨としてそれらは大変正しいものでした。

 ところが…。善い目的のために制定された法が正しく運用されない、ということが起こってきます。例えば「青苗法」は農民が地主から高利で種を買う金を貸しつけられ、奴隷化していくことを防ぐため政府が低利で融資する法ですが、実際の運用では現場の官僚が制度の趣旨を正しく理解しておらず、「貸せと言われたから貸す」、強制的に貸し付けを行い農民の恨みを買ってしまうのです。

 こうして王安石の新法改革に異を唱えた代表的人物が保守派の司馬光でした。史書『資治通鑑』の編者でもあるかれは、一言で言うと「制度より人事だ」という考え方でした。良い官僚、誠実で有能な官僚を登用せよ。あるとき、神宗皇帝が「干ばつで首都開封に難民が流入している。どうしたらいいか」と司馬光に問いかけたところ、司馬光は「その地域に良い官僚を配置することです」と答えた、といいます。これは「そんな迂遠な」と採用されなかったそうですが、司馬光の考え方をよく表しています。そして人君の「三徳」、すなわち仁・明・武、そして臣下に対する働きかけとしての「御臣(ぎょしん)」、すなわち任官・信賞・必罰、などの政治理念を提唱。

 王安石の失脚後、民衆から大の歓迎を受け政界復帰した司馬光も、王安石の制定した多くの新法を廃止はしたもののその後の改革に着手することなく死去。

 さて、こうした北宋の出来事からは、私たちは何を学べるでしょうか。

 まず、制度改革にかならず伴う運用の問題。現場で「運用」にかかわる人ひとりひとりに、制度のもつ精神が深く「はら落ち」しなければ、ものごとは本当には動きません。善い意図のもとに設計された制度でも、それは然りです。

 あまりに性急な改革をしますと、人はついていけない。このことには、脳のメカニズムも恐らくかかわっているでしょう。諸制度改革の決断をする人の脳では、決断のたびに快楽物質のドーパミンが分泌されます。いわば「楽しい」のです。一方で、他人の決めた改革に従う大多数の人には、その現象は起こりません。その人達にとっては、せっかく自分が習熟し愛着のある現行制度を取り上げられ新しいものに習熟しなければならないのですから、当面はストレスになるばかりです。例え善い意図のものであっても。

 もう1つは、やはり実務を担うフォロワー、臣下たちの「質」の問題。かれらの新しいものに慣れるストレスに配慮したとしても、やはりフォロワーの側も、改革の意図を理解し共感するようなまっとうな倫理観をもたなければなりません。「自分がらくをしたい」「既得権益をむさぼりたい」というような卑しい心をもっていてはダメなのです。王安石はそれを「処罰」によって防ごうとしたのですが、ムチだけでは人の心を善くできないことも明らかです。

 北宋の改革は、結局末代の徽宗皇帝の時代までもつれ込み、金による侵攻を招きます。さて、あなたの会社・組織で、「改革」をやり遂げるには、何が必要なのでしょうか…?


※本稿執筆にあたり姫路師友会、安岡正篤師の孫である河田尚子先生のご講義よりご教示をいただきました。ここに御礼申し上げます。



筆者プロフィール・NPO法人企業内コーチ育成協会代表理事。1963年生まれ。
通信社記者、医薬翻訳者を経て2001年、ビジネスコーチ開始。特に管理職育成を得意とし、非営利のマネージャー教育により全国1位、社内1位といった「トップマネージャー」を輩出。
2008年より現職。よのなかカフェ、承認大賞といった社会人教育のイベントも主催する。
著書に『認めるミドルが会社を変える』(カナリア書房)など。
NPO法人企業内コーチ育成協会
URL:http://c-c-a.jp
電 話:078−857−7055
メールアドレス:info@c-c-a.jp



【月刊中央会「O!(オー)」2012年7月号 所載



人君の「三徳」、すなわち仁・明・武、
そして臣下に対する働きかけとしての「御臣(ぎょしん)」、すなわち任官・信賞・必罰
―。


私はこれら全部を包含するような欲張った考え方として、「承認」をいおうとしてるかもしれない。

なんでもインスタントな現代向きかも。




神戸のコーチング講座 NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp



 兵庫県中小企業団体中央会様の機関誌「O!(オー)」(月刊)。

 こちらに、昨年度3回にわたり「誌上コーチングセミナー」として連載をさせていただきました。このたび、「今年度も5回シリーズで」と嬉しいお声掛けをいただき、引き続き執筆させていただくことになりました。


「熊野筆ブランドを世界へ!」
「兵庫県洋風商工業協同組合が震災で神戸に避難している被災者を支援!」
などの記事に混じり、「コーチング/人材マネジメント/リーダーシップ/組織オペレーション」に関するコラムを


 同会編集部のご了承をいただき、4月号掲載分の原稿を転載させていただきます:

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「女性が辞める!何がそうさせる?」



 気付かないうちに「人」の問題が起きて、成長の足かせになっている…そんな現象があなたの会社にもありませんか?「人」の問題によく効くクスリ、「コミュニケーション」「リーダーシップ」の観点から解決法をお伝えします。



「このごろ女性スタッフが定着しなくて困ってるんですよ」

 ある編集プロダクションの方からご相談を受けました。この会社の総務部門には男性の部長以下女性スタッフが8人、いずれもアルバイト雇用。その女性たちの離職が激しく、一部のベテランを除いて採用しては辞める、を繰り返しているそうです。

 さて、そこでは何が起きているのでしょうか。

 仕事の内容は給与計算など人事・総務の仕事ですが、アルバイトがするには高度な内容の仕事。初めて入ったスタッフが順番を追って仕事を覚えられるような教育体系は存在しない。ベテランスタッフのだれも「自分が教える指導係だ」と思っておらず、指導係を引き受けるほどの報酬は貰っていないと考えている。スタッフ同士のコミュニケーションがなく、秩序や規範もない。給湯室では、誰かが誰かの悪口を言っている。人間関係の悪さに耐えきれず、入社数週間でだれかが辞め、それをみた他の新入りスタッフもつられて辞める…。

 絵に描いたような「マネジメント不在」の部門。部長はこの状況に無策で、ひたすら求人広告を出して面接するばかり。他部署からみると部長の立場から叱って問題行動の是正をすることが必要にみえるそうですが、部長ご本人は調子が良くて、叱れないご性格とのこと。

 とはいえ、マネジメントというのは「性格だからほめられない」「叱れない」と逃げられることではありません。「『マネジメント不在状態』を脱するために、まずは部長さんが『承認=認める、ほめる』ことをしっかり習得して実行することから始めてください、それによってスタッフ同士の関係もぐっと良くなるはずです。その次の段階で『叱る』ことも習得し、職場でして良いこと、悪いことを示せるようになってください」とご説明し、理解していただくことができました。

 管理職の世代から既に「人と関わることができない」が始まっている時代。コスト削減のために正規雇用を減らし非正規雇用にしても、「マネジメント不在」では、「人」の問題に永遠に振り回されるのです。



 もう1人、「わが社の女性社員はすぐ辞める」と、ため息をついている男性支店長さんがいました。こちらは正社員の話。

 会社全体としては「女性活用」を掲げているのですが、何故かこの支店の女性の定着が悪く、3年以内に大半が辞めてしまっているといいます。

「低成長時代の収益のカギは人材ですよね。いい人にいかに長く働いてもらうかですよね」

 色々話していると、理由らしきものがみえてきました。支店長は、正社員の女性に「20時には帰れ」と言い、それ以降の残業は男性社員だけで行っている、というのです。

「女性の中には『女性だから帰れ』と言われると、戦力として当てにされていない、認められていない、と感じる人がいるかもしれませんね。男性女性にこだわらず個別に、『遅くまでやる気があるか』ときいてみられたらどうでしょう」

 支店長さんはなるほど、とうなずかれました。

「女性が辞める」、表面的な理由は違えど、根底にある問題は同じ。当協会が繰り返し「承認」を強調するのはこのためです。(了)


筆者略歴:正田 佐与(しょうだ さよ) NPO法人企業内コーチ育成協会代表理事。
1963年生まれ。通信社記者、医薬翻訳者を経て2001年、ビジネスコーチ開始。特に管理職育成を得意とし、非営利のマネージャー教育により全国1位、社内1位といった「トップマネージャー」を輩出。2008年より現職。よのなかカフェ、承認大賞といった社会人教育のイベントも主催する。著書に『認めるミドルが会社を変える』(カナリア書房)など。
NPO法人企業内コーチ育成協会URL:http://c-c-a.jp 電話078-857-7055 メールアドレスinfo@c-c-a.jp

 

【月刊中央会 O!(オー)2012年4月号 所載】

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